教養民法基礎コース

意思表示①

Question【ケース1-1】

Aは、Bに対して、売る気がないにもかかわらず、自分の持っているPCを「20万円で売ってあげる」と言いました。それに対して、Bが、Aに売る気がないことに気付かずに「買います!」と応じた場合、この契約は有効に成立するでしょうか?
意思表示1

意思表示とは何か?

契約は両当事者の意思表示の合致(申込みと承諾の合致)により成立しましたね。

契約が成立すると、拘束力が契約当事者に生じます。契約によって生じた義務(約束)を果たさなかった場合(これを債務不履行といいます)、その当事者は債務不履行責任(具体的には損害賠償責任等)を負うことになります。

【図解1-1①】契約の成立過程

契約の成立過程

では、このような契約の拘束力が生じる根拠はどこにあるのでしょうか?

それは当事者の意思にあります。

契約は、両当事者がそう望んだが故に成立したものですから、その拘束力の根拠も自らの意思にあるとされています。「あなたが自ら望みそのように約束したのですから守りなさい」ということに契約の拘束力の根拠があるのです。

ということは、申込みや承諾をした者が本当はそんなことは思っていなかった、望んでいなかったという場合に、契約の拘束力を生じさせていいのかが問題となります。

また、騙されたり、強迫されてそのような意思をもつに至った場合にも同様の問題が生じることになります。

民法では、意思表示に問題があるケースとして、心裡留保、(通謀)虚偽表示、錯誤、詐欺、強迫の5つについて定めをおいています。心裡留保、(通謀)虚偽表示、錯誤は「意思の不存在」、詐欺、強迫は「瑕疵ある意思表示」とよばれています。

基本的な考え方として、「意思の不存在」は無効の問題、「瑕疵ある意思表示」は取消しの問題として扱われます。

【図解1-1②】意思表示に問題がある5類型

意思表示に問題がある5類型

この5つの類型について順番に見ていくことにしましょう。

【板書ノート1-1①】

意思表示に問題がある5類型

① 心裡留保
② (通謀)虚偽表示
③ 錯誤
④ 詐欺
⑤ 強迫

①~③や「意思の不存在」と呼ばれ、無効か否かが問題となる

④⑤は「瑕疵ある意思表示」と呼ばれ、取消し可能か否かが問題となる。

心裡留保とは何か?

嘘や冗談で「買います」「売ります」と意思表示をすることを「心裡留保」といいます。

〔ケース〕のAは売る気がないにもかかわらず「売ります」と意思表示をしていますので、「心裡留保」になります。

民法93条では、「表意者が真意ではないことを知ってする意思表示」と表現されています。

第93条本文
表意者がその真意でないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない

「表意者」とは意思表示をした人を指します。したがって、嘘や冗談で「売ります」「買います」と言った人のことですね。

また、「効力を妨げられない」とは、有効ということです。

心裡留保は原則有効である

嘘や冗談で意思表示をしたときでも、その意思表示は有効であり、契約も有効に成立します。

どうしてこのような規定になっているのでしょうか?

それは、相手方は表意者の意思表示を信じ行動しているので、その信頼を保護する必要があるからです。つまり、心裡留保がされた場合、相手方の保護を図り、取引の安全を守る必要があることからこのような規定となっているのです。

相手方が悪意・有過失の場合は無効となる

心裡留保が原則有効とされているのは、相手方の保護のためでした。

とすると、相手方が保護に値しない者と考えられる場合、有効とすることで相手方の信頼を保護してあげる必要はなさそうです。

93条ただし書きでは、相手方が悪意または有過失の場合、無効となる旨の規定を置いています。

第93条ただし書
相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

相手方が、表意者が嘘や冗談で言っていることを知っていた場合(=悪意)や注意すれば知ることができた場合(=有過失)は、意思表示は無効となり、契約は成立しなかったことになります。

【図解1-1③】「心裡留保」のまとめ

「心裡留保」のまとめ

Answer【ケース1-1】

Bは「気付かず」とあるので、「善意」であることが分かります。さらに、気付くことができた事情がなければ、「善意かつ無過失」となりますので、契約は有効に成立することになります。したがって、Aは「冗談でした」で終わりにすることはできず、20万円と引き換えにこのPCを引き渡す義務を負います。
一方、もし他の事情からBはAに売る気がなかったことに気付くことができた場合には、有過失となり、契約は無効となります。

【板書ノート1-1②】

心裡留保の整理
原則(相手方が善意かつ無過失の場合)
⇒契約は有効
例外(相手方が悪意または有過失の場合)
⇒契約は無効
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